ハンド表の設計ノート
あの表を作るまでに、何をどう考えたかの全記録
結論(表そのもの)ではなく、結論に至る過程を残した資料です。
同じ手順を踏めば、6-max 以外でも自分で表を作れるようになります。
壁紙チャート
- UTG から
- HJ から
- CO から
- BTN のみ
- 薄い塗り=混合
- 降りる
自分の席の色と、それより濃い色だけレイズ
なぜ「過程」を資料にするのか
表そのものは、あなたの目標にとっては副産物です
表を配るだけだと起きること
表に載っていない状況で止まります。9-max、アンティあり、40BB、リンプが 3 人。どれも表の外側です。
この資料で扱うこと
- どんな前提を先に固定したか
- レンジの幅をどう決めたか
- どのハンドをどんな理由で削ったか
過程を渡すと起きること
前提が変わったとき、自分で作り直せます。表は「毎回引くもの」から「一度作って捨てるもの」に変わります。
この資料で扱わないこと
- ソルバーの実行結果(使っていません)
- フロップ以降の戦略
- 正解の保証。目安であることは変わりません
作業の順番
この 7 手順は、どのゲーム形式でもそのまま使えます
1 前提を固定する
人数・スタック・サイズ・レーキを先に決める
2 レンジを式で持つ
169 個を書かず、記法で持って計算可能にする
3 幅の目標を置く
ハンドより先に「何 % 開けるか」を決める
4 削る順番を決める
広すぎた分を、原則に従って落としていく
5 コンボで検算する
感覚ではなく 1326 分のいくつで確かめる
6 端のハンドを言語化
境界の理由が言えなければ、境界が間違っている
7 限界を明記する
信じてよい所と、そうでない所を分けて書く
順番に意味があります。前提を決める前にハンドを選ぶと、後から全部やり直すことになります。
1 前提と道具
何を固定し、何を使って考えたか
最初に固定した 4 つの前提
この 4 つが動くと、表の中身は全部変わります
6-max
後ろに何人残るかが、レンジ幅を決める最大の変数です。9-max なら UTG はさらに 3〜4% 狭くなります。
有効スタック 100BB
スタックはインプライドオッズと SPR を決めます。40BB ならスーテッドコネクターの価値は大きく落ちます。
オープン 2.5BB
サイズは相手に必要なフォールド率を決めます。3BB 開けるなら、もう少しタイトに寄せるのが自然です。
オンライン想定のレーキ
レーキが高いほど全レンジが締まります。ライブの高レーキなら 3〜5% タイトにします。
「この表はいつ使えないか」を先に書けるのは、前提を固定したからです。
前提が動いたとき、何が壊れるか
変数ごとに、影響する場所が違います
| 人数が増える(9-max) | 前の席ほど狭くなる。UTG は 12〜14% 程度まで |
| スタックが浅くなる | ペアとスーテッドコネクターの価値が落ちる |
| スタックが深くなる | ナッツ性のある手(スーテッド)の価値が上がる |
| オープンサイズが大きい | レンジは締まる。降ろせる幅は増える |
| レーキが高い | 全体が締まる。混合ハンドから消える |
| アンティがある | ポットが大きいので全体が広がる |
| トーナメント(ICM) | チップ EV と賞金 EV がずれる。別の表が要る |
つまり「正しいプリフロップ表」は 1 枚では存在しません。条件の数だけ表があります。
レンジを「式」で持つ
169 個を手で並べると、必ず間違えます
使った記法
- 55+ = 55 から AA までのペア
- A2s+ = A2s から AKs までのスーテッド
- A5s-A2s = その区間だけ
- A8s:0.5 = そのハンドを 50% の頻度で
式で持つ利点
- レンジ全体の % をその場で計算できる
- 広すぎた時、どこを削るか差分で見える
- 他のポジションと構造を比較できる
- 書き間違いが数字のズレとして表に出る
この記法は覚える必要はありません。重要なのは「レンジは覚えるものではなく、条件から計算できるもの」という扱い方のほうです。
検算の土台:コンボ計算
暗記ここは暗記。ポーカーの算数の基礎になります
ポケットペア
6
1 種類あたり 6 通り。13 種で 78
スーテッド
4
1 種類あたり 4 通り。78 種で 312
オフスーテッド
12
1 種類あたり 12 通り。78 種で 936
コンボ構成(全 1326 通り)
- オフスーテッド 936(70.6%)
- スーテッド 312(23.5%)
- ペア 78(5.9%)
ここから分かること
- 全部で 1326 通り。これが分母です
- 表の面積の 7 割はオフスーテッド
- 見た目の広さと、実際の % は一致しない
- だから必ず % で検算します
2 作る過程
幅を決め、削り、検算した記録
ハンドより先に「幅」を決める
どの手を入れるかより、何 % 開けるかが先です
順序は論理で決まる
- 後ろに残る人数が減るほど広くなる
- UTG < HJ < CO < BTN は例外なし
- SB だけは別の力学(OOP)で決まる
絶対値は「帯」で置く
- 公開されている一般的なレンジ幅の帯を採用
- 1 つの数字ではなく幅として扱う
- 帯の中でどこを取るかはレーキ次第
目標帯と、最終的に置いた値
| UTG | 15 〜 17% | 16.1% |
| HJ | 19 〜 22% | 21.3% |
| CO | 26 〜 29% | 28.6% |
| BTN | 45 〜 50% | 47.6% |
| SB | 38 〜 44% | 40.1% |
幅を先に決めると、ハンド選びが「足し算」ではなく「配分」になります。
実際には一発で決まっていません
最初に置いた版は、数えてみると全部ずれていました
| UTG | 第 1 版 12.0% | 狭すぎた | → 最終 16.1% |
| HJ | 第 1 版 22.6% | やや広い | → 最終 21.3% |
| CO | 第 1 版 32.5% | 広すぎた | → 最終 28.6% |
| BTN | 第 1 版 48.9% | やや広い | → 最終 47.6% |
| SB | 第 1 版 41.6% | ほぼ適正 | → 最終 40.1% |
感覚で書いたレンジは、ほぼ必ず広くなります。数えるまで自分でも気づきません。だから検算を手順に入れてあります。
広すぎた分を、どの順番で削るか
4 つの原則に優先順位をつけました
① ドミネートされる手から
KJo・A9o のように、当たった時ほど負ける手を最初に落とします。勝率ではなく「勝った時の損」で判断します。
② 実現率の低い手
オフスーテッドは、ポジションがないと勝ち切れません。同じ勝率でも、手にできる分が少ない手から削ります。
③ ナッツ性のない手
Q6s のように、当たっても 2 番手にしかならない手。相手が降りてくれないので、価値が伸びません。
④ ブロッカーのない手
3bet される側に回ったとき、何も減らせない手は逃げ場がありません。最後まで残すのはブロッカーのある手です。
逆に言うと、この 4 つに当てはまらない手は、広げたいときに最初に戻す候補になります。
実例:CO を 32.5% から 28.6% へ
黄色が、削ったハンドです
CO のオープンレンジ(最終版)
- オープン
- 削ったハンド
レンジ全体 28.6%(目安)
削ったもの
- K2s〜K4s:ナッツにならないフラッシュ
- Q6s・74s・53s:当たっても 2 番手
- A4o・K9o・Q9o・J9o:実現率が低い
残したもの
- A2s まで全部:ブロッカーとナッツ性
- 54s まで:ナッツを作れる形
- A5o:ホイール性とブロッカーの組み合わせ
判断の型
「弱いから削る」ではなく「役割がないから削る」
混合頻度(0.5 など)をどう置いたか
ここが、この資料で最も信用度の低い部分です
なぜ混合が必要か
レンジの境界は線ではなく帯です。A8s と A7s の間に、はっきりした崖はありません。帯を表現する方法が混合です。
だから、こう使ってください
- 混合セルは「どちらでもよい」と読む
- 相手の傾向で 0% か 100% に倒してよい
- 小数点そのものを覚えない
どう置いたか(正直な話)
境界からの距離に応じて 0.7 / 0.5 / 0.3 を割り当て、全体の % が目標帯に入るよう調整しました。ソルバー出力ではありません。
ソルバーが混合を使う理由
- 相手を無差別(indifferent)にするため
- 同じ手を常に同じように扱うと読まれる
- EV が等しい場所でだけ混ぜている
3 個別ハンドの判断
なぜその手が、その場所にいるのか
A ブロッカー系の判断
A5s と A9o の差は、キッカーの強さではありません
A5s / A4s
ブロッカー・ホイール性・ナッツフラッシュ性の 3 つが同時に成立する唯一の帯。3bet ブラフと 4bet ブラフの第一候補です。
A3s / A2s
ブロッカーは同じですが、作れる役が減ります。ブラフのコンボ数が足りない時に足す枠として扱いました。
A5o / A4o
SB で厚く入れたのは、ホイール性とブロッカーで 3bet に耐えやすいため。A6o が入りにくいのはここに差があるからです。
A9o / ATo
A を持つ価値はありますが、コールすると相手の A はほぼ全部が上。当たった時ほど損をするので、前の席から落としました。
共通する問い:この手は相手の何を減らすのか。減らせないなら、ブラフには使いません。
スーテッド系の判断
「スーテッドだから強い」ではありません
K5s / Q5s
フラッシュは作れても 2 番手になりがち。降ろす力もないので、レンジ幅が要る席でだけ使います。
76s / 65s
相手のレンジが持っていないナッツを作れる形。コールで使う手で、3bet ブラフには向きません。
54s
レンジの最下端。入るか入らないかが、レーキとポジションで最も変わる場所です。混合にしてあるのはそのためです。
T9s / JTs
ブロードウェイにもローボードにも届く、最も柔軟な帯。コールにも 3bet ブラフにも使えます。
フラッシュが完成する確率は約 6%。スーテッドの価値は、完成率よりも「作れる役の質」にあります。
オープンに対する表の作り方
3bet・コール・フォールドは、別々に作って重ねました
BB が BTN の 2.5BB オープンに対して(1.5BBコールで約3.5:1)
- 3bet
- コール
- フォールド
レンジ全体 43.4%(目安)内訳の目安:3bet 12.0%・コール 40.7%(重複はコール側で調整)
順番
- 先に 3bet レンジを作る(幅は 6〜13%)
- 次にコールレンジを広く書く
- 重なった部分は 3bet を優先して差し引く
幅の目安
- BB vs BTN:3bet 12% / コール 40% 前後
- BB vs UTG:3bet 6% / コールも大きく絞る
- BTN vs CO:3bet 9% / コールを厚く持てる
ここでも最初は狭すぎました
BB vs BTN は 9.8% → 12% に足しています
3bet の形をどう決めたか
相手が誰かで、レンジの形そのものが変わります
ポラライズ型
上(QQ+ / AK)と下(A5s〜A2s)だけを使い、真ん中は使いません。相手のレンジが強い時や、自分が OOP の時に選びます。BB vs UTG がこの形です。
リニア寄り
上から順に厚く使います。相手のレンジが広く、こちらのバリュー基準を下げられる時。BB vs BTN はこちら寄りになります。
判断の軸
- 相手のレンジが強いほどポラライズ寄り、広いほどリニア寄り
- 自分が OOP ならポラライズ寄り(ショーダウンまで持ち込みにくいため)
4bet・5bet を表にしなかった理由
ここを 13×13 で描くと、嘘になります
SPR が構造を決めるから
4bet した時点で残りスタックが浅くなり、選択肢が「降りる」「入れる」に収束します。ハンドの強さより、スタックの残り方で決まります。
サイズ依存が大きすぎるから
IP 2.2 倍と OOP 3 倍では、必要なフォールド率もブラフ比率も別物です。1 枚の表にすると、どちらかが必ず間違いになります。
混合が支配的だから
この領域はソルバーでも混合が多く、目安で置いた小数点が実戦の判断を歪めます。だから考え方だけを文章で残しました。
作れるのに作らない、という判断も設計の一部です。
4 見せ方の設計
壁紙と資料で、載せる情報を変えた理由
壁紙に何を載せ、何を外したか
実戦中に見るものは、選択肢を減らすほど役に立ちます
壁紙チャート
- UTG から
- HJ から
- CO から
- BTN のみ
- 薄い塗り=混合
- 降りる
自分の席の色と、それより濃い色だけレイズ
段階表にした理由
- 席ごとに 5 枚持つと、実戦で選べない
- 色の濃さ=参加できる席の早さ、で 1 枚に畳む
- 見る動作が「自分の席の色を探す」だけになる
意図的に外したもの
- SB / BB のレンジ(別の力学で動くため)
- オープンに対する表(誤用が起きやすい)
- ベットサイズ表(迷う要素を増やさない)
代わりに書き足したもの
「この表を使ってはいけない場面」の 3 行
壁紙の物理的な設計
読めなければ、正しくても意味がありません
1179 × 2556
iPhone 14 Pro の実解像度。等倍で作り、縮小によるにじみを避けています。
上部 700px を空ける
ロック画面の時計と日付が乗る領域。ここに情報を置くと隠れます。
1 セル 76px
13 列を画面幅に収めた上で、文字が潰れない最小サイズから逆算しました。
背景を暗くした
OLED で目に刺さらず、色の識別もしやすい。暗所のテーブルで見る前提です。
ロック画面向けです。ホーム画面にするとアイコンで大半が隠れます。
資料側の設計
同じ内容でも、並べ方で残り方が変わります
結論 → 理由 → 間違い の順
- 結論だけでは応用が効かない
- 理由だけでは実戦で遅い
- 間違いを最後に置くと記憶に残る
暗記・理解・状況判断を分けた
- 混ぜると、全部を暗記しようとしてしまう
- 暗記すべきは配置と幅だけ
- 混合セルは判断の対象で、暗記対象ではない
3 分類の内訳
暗記
13×13 の配置、コンボ数、レンジ幅の 5 つの数字
理解
境界の理由、ブロッカー、実現率、ドミネート
状況判断
混合セル、相手のタイプ、レーキ、プールの傾向
5 限界
この表を信じてよい範囲
強く主張できること/できないこと
資料の価値は、限界を書けるかで決まります
信じてよい(構造)
- UTG < HJ < CO < BTN という順序
- スーテッドがオフスーテッドに優ること
- A ブロッカーがブラフに向く理由
- ドミネートされる手を落とす考え方
- コンボ計算(6 / 4 / 12 と 1326)
信じてはいけない(数値)
- 「A8s は 50%」のような小数点そのもの
- SB の戦略(リンプを含む混合が未反映)
- BB のディフェンス幅(レーキに最も敏感)
- 4bet・5bet の頻度
- 境界ちょうどのハンドの扱い
左は理屈から導けるもの、右は実測が要るもの。この線引きが、この資料で一番重要な部分です。
そもそも適用外の状況
ここに当てはまるなら、表ごと捨ててください
| ライブの 9-max | 人数が違います。前の席はさらに 3〜4% 締めます |
| リンプが複数人入るテーブル | オープンではなくアイソレートの話になります |
| 有効スタック 40BB 以下 | SPR が変わり、スーテッドコネクターの価値が落ちます |
| アンティのあるゲーム | ポットが大きく、全体に広げる方向へ動きます |
| トーナメント(特にバブル以降) | ICM でチップ EV と賞金 EV がずれます |
| レーキが極端に高いゲーム | 全レンジを 3〜5% 締める、もしくは参加しない |
表が使えない場面を言えることは、表を使えることと同じくらい実力です。
次に検証する順番
優先度の高いものから、実測で埋めていきます
1 自分のステークスのレーキ
レーキが分かると、全体を何 % 締めるかが決まります
2 BB のディフェンス幅
最も影響が大きく、最もズレやすい場所です
3 SB の戦略(リンプの有無)
ここだけ構造そのものが変わる可能性があります
4 3bet に対するプールの反応
降りすぎているなら、混合を 100% に倒せます
5 4bet の頻度
ここまで来て初めて、数値の精度が問題になります
上から順に、実戦のデータで置き換えていけば、この表はあなた専用になります。
別の条件で、自分で作り直す手順
この資料の最終的な目的はここです
① 条件を書き出す
人数・スタック・サイズ・レーキ・アンティ。5 つ書けば前提は固定できます。
② 幅を先に決める
後ろの人数から順序を作り、既知の帯から絶対値を置きます。
③ 骨格を置く
ペア・スーテッド A・ブロードウェイ・コネクターの 4 本から先に埋めます。
④ 検算して削る
1326 で割って % を出し、4 つの原則の順に落とします。
⑤ 端を説明する
境界のハンドを 3 つ選び、理由を言葉にできれば完成です。
この 5 手順を回せるようになった時点で、配った表は不要になります。
表を捨てられるようになるまで
この資料で渡したのは、169 個の答えではなく、答えの作り方です。
前提が変われば表も変わる、という事実を扱えるようになれば、未知のスポットでも同じ手順が使えます。
短期
壁紙で席ごとの幅を身体に入れる
中期
境界のハンドを 30 秒で説明できるようにする
長期
条件を変えて、自分で表を作り直す
次は、この表を見ずに境界を説明する練習から始めます。